Facebook F8 2日目 + Facebook Graph API / Marketing API v3.3 リリース


前回の投稿に引き続いて F8 2019 2 日目に参加してきた。F8 に合わせて Graph API / Marketing API v3.3 がリリースされていたので、まずはこちらについて触れておきたい。

Graph API / Marketing API v3.3

今回のリリースは、rate limit の仕様変更を除いて正直そこまで大きな差分はないと考えている。
いくつかのエンドポイントおよび webhook が廃止となったほか、引数または戻り値に若干の修正が加えられたのみとなる。

詳細は ChangeLog に譲るとして、個人的に気になった項目だけ紹介していきたい。

High-MPS mode の概念の導入

正直、Messenger ベースでのマーケティングオートメーションが全く進んでいない、というよりそもそも LINE が席巻していて Messenger のシェアがそこまで大きくない日本では余り関係ないが、high-MPS (Messages Per Second) mode の概念が導入された。

これは、現時点ではだいたい 40 通 / 本を基準として、それを超える頻度でメッセージを送受信すると Page が High-MPS mode と呼ばれるモードに切り替わる。

いったん High-MPS mode になると、以降は Page のメッセージインボックスや Conversation API が無効化され、High-MPS mode を解除できなくなってしまう。

対策としてはメッセージの大量送信には Conversation API ではなく Broadcast API を使えということになる。

High-MPS mode そのものは現時点では日本国内ではそこまで影響範囲はないが、今後はこの存在を考慮する必要はある。
というのは、F8 2019 でも発表されたとおり、Facebook Messenger が Facebook Messenger / Instagram Messenger / WhatsApp の 3 プラットフォームに対応するからに他ならない。

現時点では確かに Facebook Messenger のみを考えれば良いが、F8 2019 の発表を見た限りでは Instagram Stories Ad を中心としてインフルエンサービジネスがやりやすいような広告メニューが増えそうな雰囲気があり、Instagram 内のメッセージ機能を使ったマーケティングの可能性も大いにあると感じた。

その一環で個々のエンドユーザに対するパーソナライズされた何かを実装するとなったとき、High-MPS mode の存在は必ず考慮する必要がある。
特に現時点では不可逆なので、High-MPS mode になってしまった場合の Facebook Page、そしてそこに紐付いた Instagram アカウントへの影響はかなり大きいと思われる。

店舗誘導広告の改善

広告の最適化目標 (optimization_goal) が強化された。特に Page Set の作成で非同期呼び出しが可能になったので、大きめのチェーンストアで一気に設定する場合はかなり楽になったと思う。

とはいえ、店舗誘導広告はコンバージョン計測が非常に難しく、路面店でないと計測できないという問題がある。
日本に限らずアメリカでもショッピングモールは当然あるので、ここに対してどうアプローチしていくか非常に気になっている。

API rate limit の仕様変更

これまでは、Facebook App の API rate limit はアプリを所有する Facebook アカウントごとに個別に設定されていた。

v3.3 以降、ここの仕様が大きく変わり、Business Manager に紐付けられていれば同一ビジネス内で rate limit を共有できるようになった。日本の携帯電話契約によくある、パケット共有と同じ概念だと考えれば分かりやすいだろう。

ここについての説明は F8 2019 のセッションで詳しく説明されていた。以下動画の 14:45 以降参照。

自分もこの場にいたが、このセッション内では多分この瞬間が一番盛り上がったと思う。

F8 2019 2日目

さて、F8 2019 2 日目について。2 日目もやはり個人的に知りたかった行動履歴の扱いについて特に触れられることはなかった。

もちろん、有害コンテンツや政治的にバイアスのかかった投稿への対応について如何に努力しているかはよく分かる内容ではあった。

だがしかし、全体的に Facebook 内での有害コンテンツやバイアスのかかった投稿に対してどう対応しているかへの言及はあったものの、Facebook そのものがどのように個人情報を取り扱っているかの説明はほぼなかったと言っていいだろう。

機械学習を利用した有害コンテンツの判定

Keynote では、実際に機械学習を使ってどのようにコンテンツの判定を行っているかの詳細が説明されていた。

個人的には、テキストでの判定がどのように行われているかが非常に興味深かった。
有害コンテンツ判定が自然言語翻訳と同じように一旦 Sentence embedding と呼ばれる中間言語のようなものにエンコードされて、デコーダで他言語翻訳ではなく有害コンテンツ判定器にかけられるらしい。翻訳と有害コンテンツ判定の違いは、デコーダの違いでしかないということになる。

Keynote 2 日目の 30:25 以降がその説明になる。これは非常に面白い実装だと思う。

ラベリング問題

機械学習を少しかじるとだいたい突き当たる問題として、如何に教師データを用意するかという問題がある。

Facebook は大量にデータがあるので教師データには困らないと思いがちだが、逆にデータが多すぎて教師データのラベリングが事実上無理になる。

それに対して Self-Supervised Learning を適用するというのは分かりやすいが、一方で政治的にバイアスがかかっているかはやはりラベリングが必要になる。
そして政治的にバイアスがかかっているかという判断そのものが主観的に寄りがちなので、人種や居住地域などを意識しているといった、Facebook ならではの問題の言及が多かったのが良かったと思う。

F8 2019 に参加してみて

高まる政府による規制の機運と自主規制

F8 2019 に 2 日間通して参加したが、個人的に興味があったプライバシー回りについては、Facebook 圏内での Facebook の対応は分かりやすかったものの、Facebook 圏外でどのように Facebook が考えて対応しているかがなかなか見えない F8 だった。
その結果、EU での規制強化に対して後手後手に回っている感は払拭できなかったと言える。

一方で、Facebook 圏内ではここまで厳しく対応が進んでいることを改めて知るいい機会だった。まだまだ人力で対応している部分もあるかとは思うが、それでも自動化に対してここまでリソースを投入している点は、日本のベンチャーやスタートアップ (敢えてここは分ける) は参考にした方がいいと思う。

Facebook はどこに向かうのか

一方、オワコンと言われて久しい Facebook がどこに向かおうとしているのか、一定の方向性が見えてきた F8 だった。

Instagram といった、買収した他メディアを統合することでリスク分散するだけと思っていたものの、実際は

こういうことなのだろう。Facebook Dating も去年発表されたときは色物かと思っていたが、グループ機能の強化といい、男女の出会いに留まらない、広い意味での新しい出会いを提供する場に作り替えようとしている意志が垣間見られた。

展示ブース

また、展示ブースも Oculus Quest を体験できたり担当者と直接コミュニケーションできたりと、非常に貴重な場だった。

今回は会場の雰囲気を記録するために、DJI osmo pocket を買って持って行っていたのでそれでブースを撮影してのが上の動画になる。同じことを考える人は他にもいるらしく、何人か osmo pocket で撮影している参加者がいた。
なお、個人的には、変に遠慮をして Messenger ブースで初日に配布されていたバックパックをもらえなかったのが衝撃的だったw

個人的には、変に遠慮をして Messenger ブースで初日に配布されていたバックパックをもらえなかったのが衝撃的だったw

完全に取り残されている日本

Facebook Developers にアップロードされている各セッションの動画では決してわかり得ないものとして、会場の雰囲気から如何に日本が世界から取り残されているか痛感せざるを得ないという点に尽きる。

  • 日本のベンチャーやスタートアップはついつい人力に頼って自動化を後回しにしがち。
  • 「日本市場は特殊」という免罪符のもと、最初からその「特殊な日本市場」にのみフォーカスしたプロダクトを作ってしまい、スケールしない。
  • 「UX」が意識されていない。されていたとしても局所的でしかない。
  • そもそも F8 の会場に余り日本人がいない。バッジを見た感じ、韓国系の方が多い印象。
  • 日本人が如何に unsocialized か。

この体験は、現地にいればこそだと思う。費用的には決して安いものではないが、機会があれば確実に掴みにいった方がいいのは間違いないだろう。

なお、今回は個人参加ではなく、勤務先からの出張というかたちでの参加だった。貴重な機会をいただいたことについて、この場を借りて感謝したい。