2021年の広告トラッキング: ログインはユーザに提供するストーリーの第一歩である
前回の投稿で、「まずはログインから考えよう」と投げかけた。
前回の投稿以降、Apple が IDFA のオプトイン強制を来年頭に延期すると発表したが、今回はそれを踏まえて今後のサイト設計をどうすべきかについて考察したい。
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これまでログインを軽視してきたのか: 課題感
「まずはログインから考えよう」と言っても、これまでログインが軽視されてきたと言うつもりはない。
エンドユーザユーザの利便性であったり、マーケティングのためにユーザの行動履歴を収集したりと、それなりにログインは重視されてきている。
だが、一部の事業者を除いて以下のようになっていないだろうか?
- そもそもログインさせるための会員登録でユーザが離脱してしまう。
- いざ会員登録させてもログインで離脱してしまう。
- そもそもログイン画面になった時点で離脱してしまう。
- ID とパスワードを忘れた結果、離脱してしまう。
- ログインさせたエンドユーザに対する施策が追いついていない。
- メルマガや LINE@ は頑張ったが全然コンバージョンしない。
- せっかく「マーケティングのために」集めた行動履歴を生かし切れていない。
- 広告は別チームで、トラッキング含め GTM の権限を渡して完全に外注している。
つまり、ウェブサイトでのコンバージョン改善施策と広告施策が分かれていることが往々にしてあるということだ。
何が問題なのか
これまではこういった縦割りでも機能していた。なぜなら、ログインしているか否かにかかわらず、広告プラットフォーム側でクロスデバイスでのユーザ追跡がそれなりに機能していたからである。
だがしかし、サードパーティ Cookie の廃止であったり IDFA の事実上の廃止により、複数デバイスを利用してアクセスしてくるそれぞれのエンドユーザをウェブサイト外部から名寄せすることが非常に難しくなってきた。
これにより、複数デバイスの名寄せを外部に完全に任せられなくなってしまい、名寄せの軸をウェブサイト側で収集した情報にせざるを得なくなってしまうのが今回のカギになる。
名寄せの軸がウェブサイト側になると何が問題なのか
こう書くとそんなにインパクトはないように感じるかもしれない。
あくまでも問題なのは名寄せであって、
広告に必要なエンドユーザの行動履歴の収集そのものには
影響はないのではないか?
だが、実際は違う。確かに広告プラットフォーム側でこれまで通り行動履歴そのものは収集できる。だが、それが誰かは名寄せが可能になるまで分からない。
前述の通り、名寄せの軸はウェブサイト側で収集した属性情報なのだ。
ここで気をつけないといけないのは、ウェブサイト側でもそのエンドユーザが誰かはログインしていない限り分からない。
つまり、エンドユーザがログインしていない限り、広告プラットフォーム側で収集している行動履歴も名寄せできず、無意味な情報になってしまうのだ。
今回の問題が事業者側の EC サイトなどに与える最大のインパクトがここになる。今回の問題提起はまさにここから始まったのだ。
外部に頼り切った行動履歴の追跡は死ぬ
これまでは「収集した顧客の行動履歴をマーケティングに生かし切れない状況」がなんとなく許されてきた。
予算がない、優先順位が低い、様々な理由があるにせよ、広告に予算を投入することで成果は出せたので、行動履歴をユーザを同定できる (注: 現実世界の誰々さんを特定するのではなく、あくまでも複数デバイス・複数の IP アドレスからのアクセスから同一人物であるかを識別するという意味での同定) 状態で収集することの優先順位を上げる必要はなかったといえばいいだろうか。
残念なことに、そういった世界は2021年頭に終わってしまう。つまり、行動履歴をユーザごとに紐付けた上で追跡する責務が広告プラットフォームから広告主側に移るということなのだ。
そこで
まずはログインから考えよう
ということになる。
ログインの重要性が変わる
一部の事業者を除けば、ログインはむしろエンドユーザの離脱ポイントで、如何に離脱させないかを中心に考えていた。
例えばログインするポイントを購買直前に持って行ったり、そもそもログインせずに買わせてみたり、あるいはソーシャルログインを導入してみたり……
それぞれサイトでのコンバージョンを向上させる施策として、広告とは別軸で考えるパターンも多かったのではないだろうか。
しかし、今回の IDFA / サードパーティ Cookie の仕様変更に伴い、ログインはマーケティングの第一歩の施策の一つとなる。
ウェブサイトを訪問したエンドユーザに対して如何に早い段階でログインしてもらうかというところにフォーカスし、エンドユーザに対して早い段階でログインするメリットを提示することで、「顔の見える」行動履歴を収集する必要がある。
でなければ、ミドル以下のファネルに対するアプローチのための手段であるダイレクトレスポンス広告が有効に使えなくなってしまう。
そう考えた場合、何のためにログインさせるかを再定義する必要がある。
「なぜログインさせたいのか」と「なぜログインしたいのか」は違う
ログインの再定義に当たって、ウェブサイト側の「なぜログインさせたいのか」とエンドユーザ側の「なぜログインしたいのか」は往々にして相反することは肝に銘じておきたい。
敢えて多くは語るまいが、例えば、会員登録やログインでの会員の離脱率が高いのは、ウェブサイト側の下心が透けて見えることが多い。
例えば、本来、会員登録時に必要なのは最低限の連絡先とログインに必要な情報のみであって、発送先の住所、生年月日、興味関心といった情報は不要のはずだ。
もちろんウェブサイトからすれば「購買時の離脱を防ぐ」「パーソナライズされたマーケティング」といった錦の御旗はある。が、エンドユーザはその時点で必ずしもそういったことまで求めているとは限らない。
購買時点であれば発送先住所は当然必要であるが、生年月日や興味関心といった情報は不要のはずである。また、購買時点より前に会員登録させたいのであれば、そもそも発送先住所すら不要のはずだ。
そもそも、購買時点で発送先住所を入力するのが面倒で離脱するエンドユーザが購買ポイントと離れた会員登録の時点で発送先住所を入力するわけがない。
このように、会員登録やログインでウェブサイト側がエンドユーザに求めるものが、その時点でのエンドユーザのウェブサイトへの期待値より遙かに高いのが問題なのだ。
「ログインさせる」最低限の理由とは
「顔の見える」行動履歴を収集するという文脈に立ち戻って考えよう。
今必要なのは、東京都港区六本木に住んでいる何某さんという現実世界の情報を同定することではなく、どこの誰かは分からないが中の人は一人であるということを早い段階で同定できること、そして同定した中の人の行動履歴を追うことで、サイト内の機能から広告まで真にパーソナライズした顧客に寄り添うアプローチを取ることなのだ。
ここで重要なのは、「ウェブサイト側の考えた最強の何か」の押しつけではなく、エンドユーザ側の視点に立つということにある。
その時点で何が最低限必要か、その時点で離脱させないために何を提供すべきかむしろその時点で顧客が本当に必要としているものは何かなど、ウェブサイト上でエンドユーザに提供する一本のストーリーとして考える必要がある。
そのストーリーの第一歩こそがログインなのだ。
ログインはサイト設計の重荷ではない
ログインは確かにサイト設計の重荷たり得る。個人情報を扱う都合上、堅牢である必要があるし、セキュリティはつねに考えていなければならない。
ログインを楽にしようとソーシャルログインを導入したが最後、Google や LINE, Twitter など、ID を提供するプラットフォーム側の動向を常に追い、アップデートに追随する必要もある。
こう考えるとただの重荷でしかないし、そこを外出ししようと考えるのは当然だと思う。
もちろん外出しは TCO 削減の観点から非常にいいオプションになる。ただ、これまで書いたとおり、ログインはマーケティングも含めた全体のユーザエクスペリエンスの第一歩であり、ここだけを切り出して考えると取り返しがつかないことになる。
そういう意味で、仮に外出しするのであれば、ログインのみにフォーカスしているパートナーではなくエンドユーザに提供するストーリーをトータルで考えられるパートナーを見つけるべきだし、インハウスで実装するにしてもログインだけを切り出して重荷のように扱うのは止めた方がいい。すべては一つに繋がったユーザエクスペリエンスストーリーなのだ。
残された時間は限られている
こう考えると、やるべきことが多いウェブサイトも多いだろう。
そんな中、IDFA の強制オプトインが来年頭に延期になった。
だがしかし、すでに大きな流れを止めることはできない。この延期はあくまでも延期であり、対応のための時間が少し増えたくらいに考えておいた方がいいだろう。