
組織に存在する「権威」の存在に気づかずに権限移譲に失敗する件
ここしばらく何社か渡り歩いていて権限移譲の試みも目にしてきたが、組織には権限とは別に「権威」があり、この存在に気をつけないと権限移譲に失敗するパターンがあるので書いておきたい。
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組織によくある悩み
まずは、これまで目にしたいくつかの悩みを挙げてみる。
「マネージャに抜擢したのに全然パフォーマンスが出ない」
よく言われる理由として、
- プレイヤーとマネージャは求められるスキルセットが違う
- 「自分でやった方が早い」の積み重ねでメンバーに委任できず、プレイングマネージャとしてどっちつかずになってしまう
あたりがある。もちろん、これらも正論だし、可能性としてはあり得る。
もう一つ、スタートアップが成長する過程の壁で見かけるのは、これまでのマネージャ (大体は創業期か創業期直後にジョインしている CXO) がマネージャを採用したものの、後任に十分委任し切れていないパターンがある。これも気づきやすいポイントだろう。
だがしかし、見落とされがちなポイントとして、
- 前任者が後任に委任しているようには見えるが、ミーティングなどで後任に物申している
- チームメンバーが前任者を「ご意見番」として扱っている
といったパターンがある。

別に組織として何か後ろ盾があるわけではないが、これらは後任の発言・行動の信頼性を下げてしまい、結果として後任が上手くワークしなくなってしまう。
「マネージャを高年収で採用したのに組織に上手く溶け込めなかったんですよね」
これは成長し始めた組織でよくあるパターンだが、
- 大企業から好待遇で採用したが、組織フェーズが違いすぎて上手く溶け込めなかった
- 大企業から来たことをアピールしすぎてしまい、既存のメンバーの反感を買ってしまった
- そもそもスキルセットを化粧しており、それを採用プロセスで見抜けなかった
といった理由で上手くオンボーディングに失敗することが多い。
だがしかし、ここでも前項と同じく前任者の影響力に飲まれてしまうパターンも十分にありえる。

「メンバーが自律的に動いてくれないんですよね」
CXO に話を聞いているとよく聞く話として、
- ボトムアップ大歓迎。意見が出るのを待っているが意見が出ず、最終的に自分が決めている。
- 色々な分野にもっと手を出してほしいが、なかなか一歩を踏み出して貰えない。結局、欠けている部分を自分が埋めている。
といった話がある。

理由として気づきやすいのは
- 新たな挑戦をして失敗したことをあげつらってしまい、挑戦しづらい雰囲気になっている。
- 自律的に動くインセンティブがない。
- そもそも自律的に動ける人を採用していない。
あたりだろうか。
大体は採用の失敗かカルチャー醸成に失敗しているパターンではあるが、これとは別に、創業期からいるメンバーがなんとかしてくれるためにそもそもやらなくてもなんともでもなってしまうパターンもあるだろう。
共通するのは、権限とは違う「権威」の存在
これらで共通するのは、前任者が持っている「権威」の存在である。ここでいう権威とは、例えば
- 創業期からいるという事実
- 過去の実績、例えばプロダクトを立ち上げたという実績
といったものから来る、特に規定ないし組織図上の根拠はないものの、勝手な思い込みまたは忖度を生み出す心理的・社会的な影響力のことを指す。
「(根拠はないが)あの人が言っているから正しいだろう」「(根拠はないが)あの人がああ言っているのだからそうしておいたほうがいいだろう」というあれのことだ、といえば誰しも何かしら心当たりがあるだろう。
この「権威」こそが、権限移譲や組織再編で一番のボトルネックになってしまう。そして一番見落とされがちなものでもある。
なぜか。
権威と権限が同一人物にあるうちはまだいいのだが、権限移譲によって権威を持つ人間から権限が外れてしまった瞬間、その人には本来決定権も責任もないにもかかわらず、権威に裏打ちされた発言力だけが残ってしまう。その結果、本人は責任を取らなくてもいい安全地帯から言いたいことを言えてしまう。
その結果、権限移譲された後任の権限が事実上否定され、メンバーはレポートラインが後任にもかかわらず、権威を持っている前任者にも根回しをしないといけない面倒くさい状況に陥り、組織の雰囲気が急速に悪化する。そして、もちろんスピード感が皆無にもなる。

まずは「権威の存在」「誰が権威を持っているか」「その権威の源泉は何か」を正確に把握する必要がある。
ではどうやって権威を移譲させるか
実はこの問題が非常に難しい。前任者にとって、
- 権限移譲は済ませており、かつ権限移譲に成功した = 執着していないことを周りに見せつけられる
- 一方で権威を源泉とした実質的な権限は持っている。
- 組織図上は権限を持っていないので、責任も伴っていない。
という、何でもできるが責任を取らなくてもいい、気楽なご身分だからだ。
経営側に近いのであれば、徐々に前任者の担当範囲を狭めるか、あるいは違う組織に移してしまうことで権威を無効化するのが早いだろう。事実上のクーデターである。

だがしかし、後任が必ずしも経営側に近いわけではない。
この場合、正攻法としては、自らの成果を周りにアピールすることで、徐々に自分にも権威をつけていくことだろう。ただし時間はかかるし、場合によっては前任の妨害に遭うこともある。それに対応する意味でも、自組織のみならず、周辺組織も含めて自分の「有用性」を適切に認識させる必要がある。
非常に地道ではあるが、前任を追い落とすのではなく、成果を粛々と積み上げ、その成果を適切にアピールすることが自らの権限に権威を伴わせる順当な手段ということだ。
参考 (PR)
- 沢渡 あまね (著), 伊達 洋駆 (著)「ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち」
- 石田 雅彦 (著)「企業価値を高める組織・人材マネジメントの思考と実践」
- Camille Fournier (著), 及川 卓也(まえがき) (その他), 武舎 広幸 (翻訳), 武舎 るみ (翻訳)「エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド」
- 加藤 定一 (著)「プレイングマネジャーの『仕事の任せ方』大全」