Facebook Pixel の trackSingle への移行は全 Pixel 同時にやらないと移行しなかった Pixel が有利になる問題
以前、Facebook Pixel に trackSingle
と呼ばれる新たな機能が実装され、複数 Pixel をインストールした場合の競合が解消できると書いた。
track
から trackSingle
に移行する場合はすべての Pixel がほぼ同時に移行すべきだということは前回でも書いたが、改めて弊社の広告運用チームと改めてこの話をしていて、移行しないと移行しなかった Pixel に悪影響が出るのではなく、移行しなかった Pixel のパフォーマンスが改善したように見え、それ以外は改善しないように見える (実際には、移行しなかった Pixel のみがより正確にトラッキングできる) ことに気づいた。つまり、正直に新機能を導入した Pixel ID が結果的にデメリットを被ってしまうという非常に辛い状況になる。
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そもそも何が問題か
Pixel 競合の何が問題かは前回でも書いたが、大まかに図で書くとこうなる。
Facebook Pixel ID をピクセルコードで送信した瞬間、それ以降発火される、ほかのピクセルコードに含まれるものも含めたすべてのイベントがその Pixel ID に対して送信されるようになる。この図の場合、双方の代理店に対して 2 回ずつ Purchase
イベントが送信される。
Facebook では同一クライアントから送信されたと判定された同一種別のイベントが短時間に送信されると、ピクセルの設置ミスだと判断して間引きされる。そのため、同一イベントだが微妙にパラメータが異なる場合、どちらかが間引かれて理論上は 1/2 の確率で正しくないパラメータが送信される。
とある代理店では Dynamic Ads を運用する一方で別の代理店では静的広告を運用している場合に Dynamic Ads 運用側のコンバージョンが半減したりするのが典型的な競合の実害で、ピクセルが間引かれて商品 ID を送信していない静的広告側のピクセルが先に発火したのがこの原因になる。
これへの対応が trackSingle
で、イベント送信時に Pixel ID も指定することで、指定した Pixel ID にのみイベントを送信することができるようになった。
同時に移行できないと何が発生するか
trackSingle
への移行は当然すべての Pixel ID に対してほぼ同時に行う必要がある。もし仮に移行しない、移行できないピクセルがあった場合に何が起きるか、そのインパクトが如何に大きいかを説明したい。
前項と同じように代理店が 2 社あり、それぞれ別のピクセルを設置しているとする。代理店 A は trackSingle
に書き換える一方で、代理店 B は何らかの理由で track
のまま運用するとする。すると、イベントの送信状況は以下のようになる。
trackSingle
に対応した代理店 A のピクセルから代理店 B に対してイベントが送信されなくなる一方で、代理店 B のピクセルは trackSingle
に移行できていないので未だ代理店 A に対してイベントを送信し続ける。その結果、
- 代理店 A は
trackSingle
に対応したにもかかわらず、競合を解消できない。 - 代理店 B は何らコストをかけず、しかも全く情報も収集せずに自分たちの知らないところで競合を解消できる。
と、複数代理店が入っているケースではまさに「敵に塩を送る」とでも言わざるを得ない状況となる。
trackSingle
に対応した代理店 A は、他の代理店が対応しないと何が起こるかも想像できるので、結果的に代理店 A も trackSingle
に移行しづらくなり、ピクセルの競合が全く解消されることなく、結果広告配信の最適化が進むこともなく広告配信が続くという、まさに繰り返し囚人のジレンマ的状況になってしまうのだ。
代理店 B が trackSingle
に移行しないのであれば、競合の事実とその解消法を把握している代理店 A も trackSingle
に移行するインセンティブがなくなる、むしろマイナスのインセンティブとなってしまい、せっかく競合を解消できる魔法の杖も使われなくなってしまう。
広告主サイドはどうするべきか
Facebook 広告に詳しい人と話をするとどうしても「そもそも複数ピクセルがインストールされているのが問題で、ピクセルを共有すべき」という議論になりがちだが、特殊とはいえ日本の状況を考えると複数ピクセルをインストールせざるを得ないのも事実としてある。
そのような日本での運用型広告で複数ピクセルをインストールせざるを得ないのは、ひとえに代理店間のコミットメントの差に起因すると言ってよい。代理店担当者によっては「代理店のリテラシーの差」といった表現をしてしまうこともあるが、個人的にはリテラシー以前にコミットメントの差が出てしまうのはこれは当たり前といえば当たり前だと思う。各代理店ごとに強み、弱みがある以上、どうしても強みにフォーカスせざるを得なくなってしまい、結果として代理店によってはこういったミクロな問題に対するコミットメントに差が出てしまわざるを得なくなるケースもあるのだ。
また、「効果測定は媒体計測ではなく計測ツールでラストクリックベースだから問題ないだろう」という考え方もあるかと思う。これはこれでそういう考え方もあるかとは思うが、一方で Facebook の配信アルゴリズムにおいてコンバージョンイベントを正確に送信することは必須と言ってもいい。効果を最大化するためにもピクセルの競合解消は必須と考えている。
このようにいろいろな要因が絡むこともあり、運用型広告を提供する中の人としては受動的な言い方にはなってしまうが、そのような状況で状況を少しでも改善するには、やはり一方の契約主体たる広告主サイド主導で各代理店にコミュニケーションし、最新の仕様に合わせていくよう働きかけていくしかないのではないだろうか。